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大手金融機関は、幹部候補となるゼネラリストを大量に確保する従来の新卒採用を見直し、とがった「異能人材」の獲得にカジを切り始めた。
2019年春の新卒採用で、芸術やスポーツなど分野を問わずに優秀な実績を上げた学生をとる「一芸入社」を始めたり、デジタル専門の学生をたくさん迎えたりする。
新興勢力の台頭や超低金利で経営は厳しい。
環境変化を乗り越えるため、新卒採用でも布石を打つ。
趣味や芸術、社会貢献などジャンルを問わず、誰にも負けない誇れる実績を上げた人――。
損害保険ジャパン日本興亜は19年の新卒採用から「チャレンジコース」を始めた。
いわゆる一芸入社だ。
スポーツ全国大会の上位入賞者や起業経験者らこだわりを持ち、何かをやり遂げた人を募集する。
みずほフィナンシャルグループは、今年から本格的に大学の理系研究室に採用担当者を送り始めた。
狙いは「STEM」人材だ。
科学・技術・工学・数学を意味する英単語の頭文字を取った言葉で、ビッグデータ分析などデジタル分野を支える人材を探す。
米欧勢が先行し、米ゴールドマン・サックスは16年採用の4割近くをSTEM人材が占めている。
みずほは、前年度に60人程度と全体の1割程度だったSTEM人材の採用を2割以上に引き上げたい考えだ。
宇田真也執行役員は「グーグルと奪い合いになるような人材を採用したい」という。
デジタル人材の確保は、大手各社に共通した課題だ。
日本生命保険や明治安田生命保険は、デジタル専門のコースをつくった。
東京海上日動火災保険や三井住友海上火災保険も新商品・サービスの開発に備え、情報処理を得意とするデジタル分野の専門人材を募る。
三井住友銀行は、高度な数理モデルで市場動向を分析し、高収益の運用につなげる「クオンツコース」や、デジタル技術で金融サービスを開発する「デジタライゼーションコース」を新設する。
一方、三菱UFJ銀行は「新卒から銀行で育てると結局、旧来型の銀行員の思考になりやすい」(幹部)とみる。デジタル人材の獲得は中途採用を主軸にする。
安定した職場の代名詞だった日本の大手金融も今は昔。
人口減や超低金利で利益の源泉である「利ざや」が縮小したり、融資が伸び悩んだりしている。
大手銀行の本業のもうけ(実質業務純益)は17年4~12月期に前年同期比で2割減った。
さらに金融とデジタル技術を融合させたフィンテックを中心とする新興勢力や異業種も台頭し、競争環境は厳しい。
店舗を訪れる客も減った。
異端の人材や専門人材を増やすことで変化を乗り切る組織をつくる狙いだ。
文系職場のイメージが強かった大手金融は、1980年代後半~90年代初頭のバブル期に、理工系学生の採用に動いた。
だが、マネックス証券の大槻奈那氏は「うまくいかなかった」という。
採用側に優秀な人材を見抜く目がなかったことなどが理由という。
(日本経済新聞 2018/04/13)