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退職金などのまとまったお金で貯蓄性の外貨建て保険を契約する人が増えている。
米ドル、豪ドルといった外貨で保険料を一時払いする商品の市場規模は年間3兆円超。
保険というより運用商品ととらえ、為替が円安に振れたタイミングで解約すれば短期間で高収益を上げられると期待する向きもあるが、見落としがちなリスクもある。
10月中旬、ある銀行の窓口で外貨建て保険について聞くと、明治安田生命保険「エブリバディプラス」、三井住友海上プライマリー生命保険「しあわせ、ずっと」、日本生命保険「ロングドリームGOLD2」を紹介された。
これらは資産運用を主目的とした貯蓄性の保険商品で、満期まで持てば外貨建てで利回りが保証される。
いずれも契約時に投資元本となる一時払い保険料に対する「目標利益」を円換算で5%、10%などと設定。目標利益が出たら、その時点で自動的に円建て保険に移行できる。
満期時に保証される利回りはあくまで外貨建て。そのときの為替相場は見通しにくいため、「いいタイミングで早めに利益を確定したい」というニーズに応える設計だ。
エブリバディプラスの60歳男性向け、一時払い保険料1千万円の提案書をみてみよう。
米ドル建てで「予定利率 年3.76%」とあるのが目を引くが、予定利率は保険会社が商品設計の基礎とする利率で、契約者にとっての利回りではないので気をつけたい。
1千万円は米ドルで8万8340ドル。
10年後の満期まで持てばこれが31.4%増えて11万6096ドルになる契約なので、スマートフォンの関数電卓で計算すると利回りは年2.76%であることが分かる。
予定利率より低いとはいえ、「短期間で目標利益5%程度なら達成できるのではないか」と思いがちな水準だが、実はそう簡単ではない。
理由の一つはコストだ。エブリバディプラスの場合、契約時に一時払い保険料の3.8%が「初期費用」として差し引かれ、米ドルから円に替えるときにも1ドル当たり50銭の手数料がかかる。
さらに金利上昇局面ではもう一つ、目標利益を遠ざけるメカニズムが働く。
「市場価格調整(MVA)」だ。外貨建て保険は外国債券で運用される。
金利と債券価格の間には、金利が上昇すると債券が値下がりし、金利が低下すると債券が値上がりするという関係があるため、中途解約に応じて保険会社が債券を売ると売却損益が発生する。
MVAはその分を解約返戻金の増減で調整する仕組み。満期まで持たない場合の金利リスクを中途解約者が負う。
満期まで持つ人に高利回りを約束するためには欠かせない仕組みであり、ほとんどの外貨建て保険に付いている。
期間長いと影響大
MVAの影響は満期までの期間が長いほど大きく、金利の変動幅に満期までの年数を掛ければ概算できる。
例えば金利が1%上がったとき、債券の値下がり率は満期まで5年ならおおむね5%、満期まで10年なら10%で、その分だけ解約返戻金が減額される。
金利が不変でも計算上は0.3~0.45%上昇とみなす商品が一般的だ。
金利低下局面であればMVAは契約者に有利だが、米長期金利は上昇傾向にある。
ファイナンシャルプランナーの高橋忠寛氏は「MVAによって目標利益を達成しにくくなり、満期までお金を動かせなくなるリスクが大きくなった」と指摘する。
(日本経済新聞 2018/11/10)