日本郵政、米アフラックに3000億円出資へ

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​日本郵政は米保険大手のアフラック・インコーポレーテッドに約3000億円を出資する方針を固めた。

発行済み株式の7~8%を取得し、4年後をメドに持ち分法適用会社とする。商品開発などで協力を深め、収益源を増やす。アフラックは日本の保険市場への外資参入の先駆け。販売網の充実した郵政との関係強化で、外資を含めた競争が一段と激しくなる。

​米アフラックは傘下のアフラック生命保険を通じ、日本でがん保険などを販売している。2017年12月期の売上高に相当する保険料収入は日米合わせて約142億ドル(約1兆6046億円)。医療保険で国内トップシェアを維持している。

郵政は月内にも正式に決議し、早ければ19年中に株式の取得を終える。経営陣の派遣などによる経営への介入はしないことを両社で申し合わせているようだ。

 

米国は生保が外国政府に支配されることを禁じている。

郵政は民営化したが、政府が過半を出資する。ルールへの抵触を避けるため、郵政は信託会社を通じて出資する。米アフラック株は一定期間保有すれば、条件次第で議決権が20%まで増す独自のルールがある。適用を受ける4年後をメドに郵政は事実上の筆頭株主となる見通しだ。

出資後はアフラックと新商品の開発や資産運用面での協業などを検討する。医療技術が進歩し、がん保険も通院で治療する人に合わせて必要な保障だけをつける商品が増えた。郵政はアフラックのノウハウをもとに商品を開発する。国内外で相乗効果が見込める分野への共同投資も検討する。

郵政グループのかんぽ生命保険が扱う保険は保障額が小さく契約しやすい。一方で商品のラインアップは見劣りする。

日本郵政は21年3月期まで3カ年の中期経営計画で数千億円規模のM&A(合併・買収)を掲げている。一方、郵政民営化法の規定で、傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の売却も進める。郵便事業は長期的に採算の悪化を見込んでいる。

米アフラックにとって日本は収益の7割超を稼ぐ最大の市場だ。

だが約30の生保が医療保険に参入し、競争は激しい。全国2万4000の郵便局を持つ郵政と関係を深め、主力商品の販売網の拡大を期待する。

がん保険など「第三分野」と呼ばれる保険市場は、日米間でたびたび議論に上ってきた。戦後の資本自由化の流れで外資系にのみ市場を開放し、アフラックが1974年にいち早く参入しシェアを拡大した。90年代の日米保険協議でも第三分野への日系企業の市場開放が議論になったが、日系企業の参入が解禁されたのは2001年だった。

13年の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉時にも米国側がかんぽ生命のがん保険参入に強い懸念を示した。当時は独自の商品開発ではなく郵政とアフラックの提携という形で摩擦を回避した経緯がある。

強固な販路を持つ郵政とアフラックの結びつきが強まることで、国内生保も販売戦略の見直しが必要になる可能性がある。

(日本経済新聞 2018/12/14)

郵政、成長の糸口探る


日本郵政が米アフラックへの出資に踏み切るのは、新たな成長の糸口を探るためだ。

 

現在の収益の柱である金融子会社2社は郵政民営化法上、将来、株式の売却を進めなければならない。本業の郵便は需要低迷や人手不足でサービスの見直しを迫られ、海外投資も豪物流会社トールの買収では巨額の減損損失を計上した。成長の一手はリスクと裏腹だ。

​持ち株会社の日本郵政は郵便、貯金、保険の主要子会社3社と一体の体制にある。どの事業も人口減少や低金利などの影響で、収益に陰りが見える。

特に厳しい状況にあるのは祖業の郵便事業だ。「このままでは郵便サービスの安定的な提供が難しい」。11月、日本郵便の諫山親副社長は総務省の有識者委員会で、郵便の配達日を週6日から5日に減らすなどの制度改正を要望した。郵便の需要は低迷しているのに人手不足で配達員などの人件費は膨らむという経営環境が続くためだ。

 

郵便の取扱数は2001年度の262億通をピークに減少が続き、17年度には172億通まで減った。

このペースだと19年度以降は営業赤字が定着し、収支は年200億円ずつ悪化するとの見通しも明らかにしている。

収益の大半を稼いできた金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)も超低金利の逆風にさらされている。しかも民営化法で日本郵政はこの2社の株式を手放すよう定められており、民営化以降、常に新たな収益源の開拓を迫られている。

郵政も手をこまぬいているわけではない。4月には不動産の、10月には企業物流の新会社を立ち上げた。だがいずれもグループの収益に貢献するまでには時間がかかる。

 

「日本郵政が独り立ちして成長するには海外に出るしかない」。

政府内には海外展開を促す声がある。人口減が進む国内にとどまっていてはじり貧との見方だ。アフラックは日本事業の割合が大きいものの、米国に足場を持つ。今後、海外市場を少しずつ開拓する上でも協業を深める意味は大きい。

もっとも投資にリスクはつきものだ。15年に6000億円を投じて買収した豪物流会社トールは業績がふるわず、日本郵政は17年3月期に4000億円の減損損失を計上した。民営化後初の最終赤字に転落した。

経営陣の刷新や人員削減など合理化を進めた結果、トールは採算が改善してきた。10月に日本郵便が同社と共同出資で設立した企業物流の新会社JPトールロジスティクスは、トールのノウハウを本格的に取り入れる器となる。しかし経営が軌道に乗るのはまだ先のことだ。

日本郵政の長門正貢社長は、20年度までの中期経営計画を発表した5月の記者会見で「3年間で数千億円規模の投資も視野に収益の底上げを目指す」と宣言していた。第1弾となる米アフラックへの出資は、郵政の新しい成長戦略の試金石となる。

(日本経済新聞 2018/12/14)

代理店担う郵便局の商品取り扱い 生保に警戒感


​今回日本郵政とアフラック・インコーポレーテッドの2社が出資関係に踏み込むことで、日本の生命保険会社の間では警戒感が広がりそうだ。現在、郵便局の窓口はアフラック以外の生保の代理店の役割も担っている。ほかの生保にとっては、今後の販売戦略に少なからず影響を与える懸念があるためだ。

「まさか、信じられない」。

大手生保幹部は報道に対し、驚きを隠さない。脳裏をよぎったのは2013年に両社が提携を発表した当時のこと。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を目前に控えたタイミング。寝耳に水の提携発表で、生保業界に動揺が走った。

当時、かんぽ生命保険は日本生命保険と08年に提携して商品の共同開発などを検討していた。日本郵政がアフラックと提携したことで事実上、日生との共同開発を撤回した形となった。

今回の出資により、日本法人のアフラック生命保険やかんぽ生命の商品戦略が大幅に変わることはない。

ただ、郵便局の大規模な拠点網は窓口としてほかの生保にとっても大きな魅力だ。経営者向け保険でみると、日生や明治安田生命保険など7社が窓口での販売をしてもらっている。

「出資関係になれば、アフラックの保険を売ると日本郵政に利益が入る仕組みになる。他社の商品をどの程度扱ってもらえるかは不透明だ」(大手生保幹部)との懸念も聞こえる。

現在、かんぽ生命と包括提携しているのが第一生命保険だ。資産運用や海外事業などさまざまな面で協業しているが、戦略を練り直さざるをえない可能性もある。

(日本経済新聞 2018/12/14)

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