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生命保険業界で医療ビッグデータを活用する動きが広がってきた。
かんぽ生命保険は契約者の病歴などを人工知能(AI)で解析し、2018年度にも保険を引き受ける際の審査基準を緩和する。
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膨大なデータで将来の病気や死亡のリスク予測をし直す結果、多くの生活習慣病患者らが「治癒の可能性がある」などとみなされ保険加入できるようになる。
IT(情報技術)活用で新しい顧客の掘り起こしに躍起だ。
かんぽ生命が分析を始めたのは国内最多の3156万件の個人保険契約と、外部の医療機関などから購入した450万人分のデータだ。
いずれも個人が特定できないよう加工・匿名化しており、治療歴のほか、健康保険組合の健康診断結果、薬の処方歴などの情報が含まれる。
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主に生活習慣病に関わる指標に着目。例えば高血圧や糖尿病患者の手術・入院、死亡率といった経過を調べる。
従来も契約者データをもとに死亡率などを予測してきたが、たくさんの外部データを組み合わせることで健康状態の変化などをより高い精度ではじき出す。
たとえば保険の申し込み時点で高血圧や糖尿病など健康リスクの高い人は加入を認めていなかったためデータが不足していたが、外部データでこうした分野を補強する。
医療技術向上や健康改善の努力によって、指標が多少悪くても健康で長生きできると分かれば、加入の裾野を広げられる。
対象となる保険は主力の養老保険、終身保険と医療特約など
。
かんぽ生命は16年度に約270万件の保険申し込みがあったうち、健康上の理由などで約1割が契約に至らなかった。
同社によると基準緩和によって毎年4万~5万件の契約拡大につながる見通しだ。
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将来は蓄積したデータを生かして健康づくりを促すような商品・サービスの開発も目指す。
基準緩和による加入者の増加や、健康増進による保険金支払いの抑制が実現すれば保険収支が改善するため、将来の保険料引き下げが期待される。
かんぽ生命は総額1200億円を投じて保険業務の基幹システムを刷新し、17年に稼働した。
新システムで管理する顧客情報や分析ツールを本格的に活用する。
他の生保大手でも医療データ活用の流れは強まっている。
日本生命保険は野村総合研究所、リクルートホールディングスと連携し、4月から健康支援サービスを始める。
健保組合など500万人規模のデータを分析し、企業向けに従業員の運動や食生活の改善を促す。
第一生命保険は日立製作所と約300万件の医療データを分析し、昨年7月から保険の引き受け基準を緩和している。
高血圧や糖尿病患者など従来基準では保険に入れなかったケースで年約1万2千件が加入できるようになったという。
国内の生活習慣病の患者は増加傾向にある。
厚生労働省によると、14年の糖尿病患者数は90年比で約2倍、高血圧疾患は約7割増えた。
加入基準の緩和や健康改善サービスの拡充は、患者数増加に対応する効果もある。
昨年5月に施行された改正個人情報保護法では、個人が識別できないように加工すれば本人の同意なしに個人データを使えるようになった。
生保各社は外部機関から購入した匿名の医療データを積極的に活用。保険金払いなどの事務作業を自動化し、余裕のできた人員を成長分野に振り向ける動きも出ている。
(日本経済新聞 2018/02/04)
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