
目次
日本の生命保険各社がオーストラリアに熱視線を送っている。
T&Dホールディングス傘下の大同生命保険は月内にも現地生保に出資する。
現地大手を買収した日本生命保険や第一生命ホールディングス(HD)は、豪州をアジア太平洋戦略の中核に位置づける。
「保険大国」日本でのノウハウをいかし、人口増で高成長が見込める豪州を海外の収益源にする戦略だ。
大同生命は現地の新興生保、インテグリティ社に14.9%を出資する。出資額は約11億円の見通し。
ドイツの現地生保に出資したことはあるが、アジア太平洋地域での出資案件は初となる。
インテグリティ社は死亡保険や、医療保険など保障性商品を中心に扱う。デジタル技術を活用した透明性の高い商品などを現地の顧客に提供する。
日本の生損保はここ数年、豪州市場の攻略を急いできた。
第一生命HDが現地大手のTALを2011年に完全子会社化したのに続き、日生も16年に大手銀行ナショナルオーストラリア銀行(NAB)の生保部門MLCを約1800億円で子会社化した。
MS&ADインシュアランスグループHDも昨年、現地生保チャレンジャー社に約440億円を出資した。
豪州の生保市場は成長余地が大きい。
同国では通常の公的年金に加え、強制加入の私的年金制度「スーパーアニュエーション」がある。
年金を中心に生保加入率は9割超と海外でも突出して高い水準を誇る。
現地の生保市場は年率で約1割前後の成長が続く。
所得水準が高いうえに、移民の増加で先進国でも高い人口の伸びが期待できる。
ただ生保市場には未成熟な面が残る。保障額は死亡保険で実際に必要な額の6割程度、就業不能などの所得補償では2割に満たないとされる。
日生は約4億豪ドル(約340億円)を投じて買収先のMLCのシステム刷新に着手。
MLCが契約者に提供する、ウエアラブル端末で収集した生体データを活用した保険料割引サービスのノウハウも共有している。
もっとも豪州に注目するのは日本勢だけではない。
17年には香港の大手生保AIAグループが大手コモンウェルス銀行の生命保険部門の買収で合意。第一生命HD傘下のTALを上回り、市場シェアで首位に浮上した。
豪州では現地当局による金融機関への資本規制が強化されている。
現地の大手銀は資本のかかる生保事業の売却に動き、海外勢がこの受け皿になる構図だ。
AIAなど香港に続き、最近では中国本土の生保も豪州進出に意欲を示している。
日本や中国を中心に豪州市場を巡る出資合戦は激しくなるばかりだ。
それだけ高い成長が見込める証左でもあるが、競争が過熱すれば買収価格の高騰といった副作用が一段と強まる可能性もある。
(日本経済新聞 2018/06/05)