
米保険大手メットライフは8月下旬、シンガポールで妊娠中の女性を対象とした保険を実験的に売り出した。
妊娠によって高血糖状態になる妊娠糖尿病と診断されれば最大2500シンガポールドル(約20万5000円)を支払う商品で、世界中にありふれた医療保険の一つにみえる。
画期的だったのは、加入者が請求手続きをしなくても保険金が支払われる点だ。
メットライフは産婦人科医院や医療記録の電子化を専門とするスタートアップなどと協業し、診断結果を安全に転送し、管理する仕組みを構築。
加入希望者がスマートフォン(スマホ)のアプリを使って申し込みさえすれば、妊娠糖尿病と判明後に自動的に保険金を受け取れるようにした。
加入時に健康状態を細かく報告したり、病気にかかった後に保険金の申請をしたりする作業は手間がかかり、消費者が保険を敬遠する一因となっていた。
妊娠糖尿病という限られた症状が対象で加入者も最大300人と小規模に設定したものの、最新の技術を使って自動化を進めた意義は小さくない。
今回異例だったもう一つの点はシンガポールで保険免許を持っていないにもかかわらず、販売が認められたことだ。
メットライフは規制の一部を満たさなくても期間限定で当局が事業展開を認める「レギュラトリー・サンドボックス」制度があるのに着目し、革新的な商品開発の実験場としてシンガポールを選んだ。
この制度はスタートアップが活用する例が多く、大企業の申請は珍しい。
シンガポール金融通貨庁(MAS)のモハンティ・チーフ・フィンテック・オフィサーは「商品を大規模に販売する前に、サンドボックスを使って保険会社や加入者にとっての問題点を解決できるか試してもらえばいい」と今回のような試みを歓迎する。
メットライフは得られたデータや自動化の手法を、世界各地の様々な商品に応用していくことを視野に入れる。
(日本経済新聞 2018/10/10)