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厳しい労働環境などでストレスを感じ、心身のバランスを崩す「精神疾患」に備える保険が充実してきた。
うつ病や統合失調症といった疾病だけでなく、その予兆の症状に給付金を支払う医療保険も出た。
精神疾患は診断が難しく、これまで生命保険会社は取り扱いに二の足を踏んできたが、患者数が増えるなかで対応も柔軟になってきた。
胃潰瘍に給付金
第一生命ホールディングス(HD)傘下のネオファースト生命保険は、ストレスによる疾患と診断されると給付金が出る医療保険を昨年11月に発売。
突発性難聴や胃潰瘍など43種類の疾患に最大5万円の診断給付金を支払う。
こうした症状は、うつ病や統合失調症など深刻な精神疾患につながる前兆ともされる。
このほか自律神経失調症やうつ病など101種類の疾病により、医師が30日以上の療養が必要と判断すれば最大30万円の療養給付金を出す。
予兆症状で給付金を出した上で契約者が精神疾患にかかった場合でも、別途給付金を出す。
再度、精神疾患になっても180日を超えていれば給付金を払う。
支払い回数は診断給付金が通算2回、療養給付金だと同10回まで。終身医療保険「ネオdeいちじきん」に上乗せする特約として用意した。
そもそも精神疾患は治療期間が長い。
厚労省の「患者調査」では、「精神・行動の障害」の平均入院日数は291.9日で、がん(19.9日)の約15倍、リハビリなど比較的療養が必要な脳血管疾患(89.5日)と比べても3倍超に上る。
精神疾患はいったんかかると長期療養を強いられるのが特徴だ。
これまで精神疾患への対応に保険会社が熱心だったとは言いにくい。
がんや急性心筋梗塞といった病気と違い、磁気共鳴画像装置(MRI)やコンピューター断層撮影装置(CT)スキャンなどの画像診断ができず、症状も外形的に分かりづらいからだ。
ネオファースト生命の中川達郎副部長は、「個人向けは(給付金の支払いを判断する際)診断の結果がぶれやすく、保険会社にとっては手を出しにくかった」と明かす。
それでもかつてよりストレス診断の精度が上がったほか、保険会社の給付金が過度に膨らまないよう支払い回数に制限を設けるなど商品面で工夫の余地も生まれている。
中川副部長は「精神疾患を保障の対象にする保険はますます増えてくる」とみる。
個人向けの先駆けは外資系のチューリッヒ生命保険だ。
13年6月にストレス性の疾病を保障する終身医療保険を発売し、16年9月には精神疾患で働けなくなった場合に備える医療保険の取り扱いも始めた。
新商品は統合失調症や胃潰瘍、うつ病などによる入院が60日を超えて続くと、入院給付金のほかに月額10万円の年金か一時金を受け取れる。
たとえば年金の受取期間を3年とし、60歳まで保険料を払い続ける契約だと30歳男女の負担額は毎月2000円前後になる。
アクサ生命保険も通常の医療保険に上乗せして入る特約を昨年9月に設けた。
就業不能でも対応
最近では医療保険だけでなく、病気やけがで長期間働けなくなる事態に備える「就業不能保険」でも、精神疾患を支払いの対象に加える動きが広がっている。
働けなくなった原因の約3割が精神疾患とされるからだ。
日本生命保険が昨年10月に取り扱いを始めた「もしものときの…生活費」や朝日生命保険の「収入サポート保険」、住友生命保険の「1UP」(ワンアップ)などだ。
一度精神疾患を経験すると保険に入れないのだろうか。
高齢社会を背景に、最近では保険会社がこぞって「引き受け基準緩和型」と呼ばれる商品を充実させている。
契約前に告知する項目を減らし、持病があっても保険に入りやすくするよう間口を広げたものだ。
多くの保険会社は契約内容を定めた約款で、過去2年以内に精神疾患で入院したり、5年以内に診察や治療を受けたりしていると保険に入れないと明示している場合が多い。
裏返すと、そうした条件に当てはまらなければ保険に入ることはできる。
ただ「一般的な医療保険より保険料が割高になることがあり、多くの人に勧められるわけではない」と指摘するファイナンシャルプランナー(FP)も少なくない。
(日本経済新聞 2018/04/21)