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金融界で異例のトップ人事が相次いできた。
日本生命保険は25日、保険数理人(アクチュアリー)の有資格者である清水博取締役専務執行役員が4月1日付で社長に就任する人事を正式発表した。
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日銀が発動したマイナス金利政策が誤算を招き、当初より1年ずれ込んだが、異色の人事であくまで首位を追求する。
みずほフィナンシャルグループ(FG)で証券子会社社長が初めて社長に昇格するなど、旧来の人事慣行を打破するような変化の兆しが出てきた。
清水氏の昇格に合わせて、筒井義信社長は代表権のある会長に就き、岡本圀衛会長は相談役に退く。
「このままじゃいかんな」。
実は筒井社長は1年前の2017年春に退任する腹づもりだった。
しかし、誤算が生じた。日銀がマイナス金利政策を発動したためだ。
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筒井社長は18年3月期までだった中期経営計画を2年で急きょ切り上げ、21年3月期までの4年間の新計画を作り直す決断をする。交代時期も必然的に1年ずらした。
日本生命の歴史の中で、筒井社長は久しぶりに聖域なく事業拡大を追求したトップだ。
一つはM&A(合併・買収)の封印解除。
前々任の宇野郁夫社長時代は金融危機の真っ最中、前任の岡本社長は保険金不払い・支払い漏れ問題が発覚し、長らく「守り」の時代が続いた。
その歴史を覆し、筒井社長は三井生命保険を買収し、豪大手銀から生保事業を買い取り、一線を画していたM&A路線を突き進んだ。
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もう一つは販売網の多様化だ。
日生の強さの源泉は全国に5万人いる「生保レディー」と呼ばれる営業職員の存在感。
しかし、ライバル会社は銀行窓販や代理店販売へ乗り出した。
手をこまぬいているわけにはいかない中、営業職員の士気を下げずに販路を拡大する二兎を追った。
NTTドコモやニトリと提携し、保険ショップも買収した。
脱聖域路線にカジを切ってもなお、首位の座は盤石とは言えない時代でもある。
マイナス金利だけでなく、2位以下が猛追し始めてきたからだ。
2014年度、100年以上守り続けてきた首位の座を明け渡す事件が起きた。
規模を示す保有契約高ではなく、売上高に相当する保険料等収入で第一生命ホールディングスに首位の座を譲ったからだ。
海外の保険会社の買収や銀行窓販へ大きく販路を拡大したことが奏功した。
翌15年度は再逆転し、一過性で終わったが、15年にはかんぽ生命保険が株式を上場。
うかうかしていられない競争環境に変わりはない。
生命保険は銀行と違い、保険契約期間も長く、運用も長い長期経営だ。足元の環境変化が即座に決算など経営成績に表れにくい。
ただ、マイナス金利で集めた保険料を国債に投資すれば安定収入を得られた時代が終わったことは間違いない。
5年後、10年後に時間差で負の影響を受ける。
清水氏はアクチュアリー資格を持つ初めての日生社長になる。
生保業界は昨年4月、保険商品の料率を改定し、今年も保険商品の根幹でもある生命表を改定する。
2年連続の改定で、商品開発の巧拙が勢力図の変化に直結しやすい状態だ。
営業の前線、支社長を経験していないものの、商品開発部長を経験した。金融業界のトップ交代は異例続きだ。
ライバルの第一生命HDが17年4月に大手で最年少の稲垣精二氏が社長に就任。みずほFGは証券社長の坂井辰史氏が清水氏と同じ4月に就く。
昨年、国内部門に強みのある三井住友銀行頭取に国際畑出身者が就いた。
日生の清水氏への交代も置かれた環境の激変を映した同じ流れと言えそうだ。
(日本経済新聞 2018/01/26)
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