オールド・ファッションド・ラブソング
- 2017/5/1
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アマゾン 新刊本
内容紹介
旧い時代のラブソングがラジオから流れてる
別れるはずのない恋人たちの曲がたくさんあるんだ
ゆっくり流れる曲を聴いて二人で聴いたなって思いだす
ぼくらを呼び止めなくてもいいよ
だって別れたりしないんだから
この小説の全編に流れるバックグラウンドミュージックは、An Old Fashioned Love Song by Three Dog Night。
ポール・ウィリアムズ(Paul Williams)の作詞作曲だ。
その時は”1970年の梅雨明け”に始まった。
ヨットの搬送日は、土日を避けて翌週の7月27日と決めた。栗原雅夫と志村隆は、長雨でできなかった最後の仕上げ、船底の水漏れ防止剤と、船体に白いペンキを塗る作業に没頭していた。
ヨットの名前は「SeagullⅡ」。Ⅱとしたのは、佐島で訓練走行用に借りた小型のディンギーに、Seagullという名が書かれていたので、その名前を引き継いで、SeagullⅡとした。
海が荒れていたのは、台風6号のせいだった。7月28日に、熱帯低気圧が発生していた。九州近辺まで接近し台風に発達した。小さな台風だったが、遠く離れた場所でも、なかなか荒れが収まらない海に閉口した。すぐにでも出航したいのをがまんして、海を眺めて続けていた。
ようやく白波が消え始めたのを見て、栗原雅夫は、志村隆にいよいよだぞといった。明日準備をして、31日に出航しようということになった。
7月30日は1日かけて、船体に、アウトリガーから伸びたアームを取り付ける作業に没頭した。ビリヤード店の金山社長に、三種類のロープの結び方を習っていたが、結ぶ方を忘れていて、結局自己流で何度もやり直して、船体に結びつけた。マストを受けるために、センター板と船底の間にはめた筒状の取り付け具は、丈夫で頼りがいがあった。
白帆がまぶしい。曲面を軽く膨らませ、光り輝く海を、自在に駆けるように思えた。爽快な風を受け、心地よい波切り音をたて、広大な海原を走った。栗原雅夫と志村隆は、ヨット雑誌の表紙を飾るヒーローになっていた。
それからしばらくは、光と風と波を体全体で感じながら、ゆっくりと海を進んだ。陸地との距離がわずかずつ変化し、時間が緩やかに流れていった。
顔に感じる風が邪魔になった。白波が目立ってきた。
風が急に強くなり、船体は海の表面を、沖に向かって横滑りした。帆があおられた。力づくでブームを引っ張ったが、横滑りは止まらず、左舷で小さな波が重なって、船体にぶつかってきた。
浜から出たときは、南風だったが、西風に変わっていた。地図を頭に浮かべて、艇は沖に向かって流されていることを理解した。・・・・・そして、
旧い時代のラブソングがラジオから流れてる
別れるはずのない恋人たちの曲がたくさんあるんだ
ゆっくり流れる曲を聴いて二人で聴いたなって思いだす
ぼくらを呼び止めなくてもいいよ
だって別れたりしないんだから
灯りを暗くしてぼくらの夢を毎晩語るんだ
二人の永遠の時をやさしく包むBGMにして流そう
ただの旧い時代のラブソング
きっとこれは君とぼくのための歌なんだ
二人の夢をつなぎとめながら
旧い時代のラブソングに耳をかたむけよう