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人生はいつも順風満帆とは限らない。
思わぬ病気やけがで入院したり、介護を受けるようになったり。ライフイベントやリスクも人それぞれだ。
超高齢化とデジタル化が同時に押し寄せる日本では、万が一への備えやお金に対する考え方も変わるだろう。
たとえば保険。
運動や食生活を日々心がけ、健康の増進に取り組む人の保険料を安くする。そんな動機づけを契約者に与え、意識や行動の変化を促そうとする保険商品が日本にもお目見えすると耳にした。
忙しさを言い訳に不摂生な生活を送る僕(34)は開発の最前線をのぞいてみた。
「契約者が健康になるよう自ら行動を変える。これは画期的な試みですよ」。
近く発表するというサービスに自信をみせるのは、Tシャツにジャケットを羽織った姿が健康的な住友生命保険の小沢正樹さん(32)。
若手を中心に自由に意見を出し合い、新たなサービスを練り上げる。
年齢や性別が同じだから一律の保険料でいいのか。生活習慣が違えば体の若さは異なるはず。
一人ひとりに目を凝らしてリスクを正確につかもう――。それが出発点だ。
腕に巻いたウエアラブル端末から毎日の歩数や心拍数を集め、健康診断書にある血圧や肝機能といった数値の変化と突き合わせれば、生活習慣病を患う可能性がある程度読めるという。
そして多くの場合、運動や食生活を改め、喫煙やアルコールの過剰な摂取を控えれば、病気に悩ませられる可能性はだいぶ減る。
小沢さんは集めたデータをどう解析すると病気の発症率を正確にはじき出し、どんなインセンティブがあれば人々の意識を変えられるのか考える。
ビッグデータや行動科学に詳しいIT(情報技術)のスタートアップ企業などとの交流で助言をもらっている。
平均寿命が延び続ける日本。
およそ50年後の2065年には男性が84.95歳、女性は91.35歳となり、15年時点から4年以上長くなるという。
厚生労働省によると、平均寿命から健康寿命を差し引いた年数は男女ともに10年前後。
できるだけこの時間を短くすることが長寿化で世界の先を行く日本の大きな課題だ。
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険では4月から、本人が亡くなると遺族に毎月の生活費を支給する保険で、身長と体重から割り出すBMI(肥満度)などが改善したら保険料を最大3割安くする試みを始めた。
「体重をあと5~6キログラム減らして保険料を抑えたい」。
こう話すのは、5月にこの保険に入った不動産会社を経営する山口泰司さん(49)。
身長174センチメートル、体重82キログラムで毎月の保険料は7千円近くだ。
保険加入を機に自宅で筋トレを始め、飲酒も控えたところ効果が出てきたと笑う。
生命保険だけではない。
自動車保険では、スマートフォン(スマホ)など車内の通信端末で急発進や急ブレーキ、運転操作から特性を点数として表し、保険料に反映させる動きが活発になってきた。
安全運転を心がけるほど懐が温まるというわけだ。
(日本経済新聞 2018/07/12)